分譲マンション人気の影に潜む「行政代執行」のリスク!解体費用1億円超えのケースも

手頃な価格で充実した共有機能、一軒家に比べた管理負担の少なさなどから、全国で人気の分譲マンション。
身軽で快適な居住性を求める人々から多くの支持を集める一方、築年数が古く、管理が行き届かなくなった空き家マンションをめぐり、マンションの所有者と行政の間でトラブルとなるケースが増えています。
手頃な価格で充実した共有機能、一軒家に比べた管理負担の少なさなどから、全国で人気の分譲マンション。
身軽で快適な居住性を求める人々から多くの支持を集める一方、築年数が古く、管理が行き届かなくなった空き家マンションをめぐり、マンションの所有者と行政の間でトラブルとなるケースが増えています。
入居者がいなくなった古いマンションが放置され、そのままでは危険だとして、行政代執行で解体工事されるケースも出始めました。
行政代執行の費用は、税金で賄われています。マンションの所有者全員に後で費用を求償しても、行方不明だったり連絡が取れなかったりすることも少なくありません。
そのため空き家となった老朽化マンションは、地域全体において大きな負担・リスクとなり得るのです。
2020年の年明けに注目を集めたのは、滋賀県野洲市にあった築48年の老朽化マンションの解体工事です。
このマンションは壁・バルコニー・共用廊下等が崩落し、さらにアスベストも含まれており、近隣住民にとって危険な状態でした。しかし所有者9名のうち一部と連絡がとれなかったため、行政代執行に踏み切ったのです。
空き家となったマンションが行政代執行により取り壊される事例は全国的にも初めてのケースとして、大きく報道されました。
空き家対策特別措置法(空家等対策の推進に関する特別措置法)とは、適切に管理されないまま放置された危険な空き家が、防災・衛星・景観面で地域住民の生活に悪影響を及ぼさないようにすることを目的として成立した法律です(同法第1条)。
そして居住者がいない空き家の中でも、
にあると認められる空き家は“特定空き家”として指定されます。(同法第2条2項)。
所有者に対する指導・勧告・命令を行い、命令に従わなければ最終手段として行政代執行による解体工事を行うことになる(同法第14条)。つまり、放置された特定空き家の改善・解体が進まない状況となった場合、所有者ではなく県や市といった行政の主導で解体工事が進められるのです。
野洲市は2018年9月に分譲マンションを“特定空き家”に指定し、9名の所有者に対して指導・勧告・命令の順に行いました。しかし4名は連絡しても反応がなく、その内1名の法人所有者は行方不明となっていました。
このマンションは、1972年建築の鉄骨3階建て。全部で9部屋ありましたが、所有者は10年以上前に全員マンションから引っ越していました。管理組合もなく、修繕費も積み立てられておらず、長年適切な管理がされないまま放置されてきました。
解体工事の着手は、2020年1月25日。野洲市が空き家対策特別措置法に基づき、行政代執行を開始しました。解体工事の終了を宣言したのは、同年7月18日。解体工事に要した費用は、総額約1億1800万円にものぼりました。
ここまで工事費用が膨れ上がったのは、有害物質アスベストがマンションに含まれていたことが原因であると報じられています。
2020年9月24日、野洲市は工事費用約1億1800万円のうち所有者3名から各約1,300万円、計約3,900万円を回収したことを発表しました。結局所有者9名のうち法人1名は最後まで行方不明、他の2名は全く連絡が取れませんでした。
残りの3名とは面談を行い、2名には今後支払いの意思があることを確認。1名は支払いが困難であると述べていたそうです。野洲市は今後も全員に対して回収を続けていくと公表していますが、それでも回収できない金額については、やはり最終的に税金で賄うことになると考えられます。
出典元:廃墟マンション解体、全国初の行政代執行…費用1億円の回収めどたたず(読売新聞オンライン)
2020年2月4日には、京都市右京区の空き家でも空き家対策特別措置法に基づく行政代執行で解体工事がされました。
この空き家は、木造2階建て長屋3戸のうちの2戸。かなり老朽化しており、2015年9月に地域住民から「危険だ」として通報が寄せられました。
2戸のもともとの所有者は既に亡くなり、相続人3名のうち2名は行方不明、1名に連絡を取っても「工事費用を捻出するのが経済的に難しい」と回答があったそうです。
工事費用は約270万円と報じられていますが、所有者からの回収は見込めないことから、結局は税金で支払うことになるでしょう。
出典元:空き家の長屋、行政代執行で取り壊し着手 解体費用270万円も…相続人2人は所在不明
マンションに限らず一軒家についても、空き家が地域社会に及ぼす悪影響は問題視されています。
総務省の『平成30年住宅・土地統計調査』によると、空き家の総数は20年間で1.5倍の846万戸に増加。賃貸用・売買用以外の木造一戸建ては、そのうち239万戸を占めています。
長期不在・取り壊し予定の空き家は高知県・鹿児島県・和歌山県に多く、全体的に西日本を中心に空き家率が高い傾向にあることがわかります。
出典元:平成30年住宅・土地統計調査
国土交通省が公表している『平成26年空家実態調査 調査結果の概要』では、調査時点(平成26年11月~平成27年2月)で人が住んでいないと回答された戸建て空き家等の所有者は、65 歳以上の高齢者が55.6%を占めていることが分かっています。
少子高齢化・首都圏一極集中が、空き家問題の一因と考えられています。
空き家はマンション・戸建て住宅に共通の問題ですが、とりわけ分譲マンションや長屋など区分所有者が多い建物の場合、権利関係が複雑であるためにより深刻なトラブルに発展しやすい傾向があります。
法律では、ひとつの財産につき複数の所有者がいる場合、その財産を処分する際には必ず全員の同意を要するとされています(民法第251条)。
管理放棄されて年月の経ったマンションの場合、全室の所有者はすでに散逸しており行方がわからず連絡が取れないケースも少なくありません。場合によっては、故人が含まれることもあり、「全員の同意」を確実に取ることは困難を極めます。
平成31年2月18日に行われた野洲市長の臨時記者会見の中でも、問題の分譲マンションに関して、野洲市長は以下のように説明しています。
(問題となっている分譲マンションの特定空き家認定は)平成24年から対応しております。所有者とは順次連絡を取っており、連絡を取れる所有者は、できれば行政代執行を避け、自ら壊したいと思っておられます。連絡が取れない所有者と連絡をしたいと思っておられますが、まだ連絡が取れない1人の同意がなければ他の8人の方は解体できません。その方に損害賠償を求められる可能がありますので。
(分譲マンションの場合)所有者が除去すべき義務を負っており、所有者が解体されるのが原則です。空家対策法により空家として認定することにより、代執行が可能となります。空家と認定しなければ、居住の場所を壊すことになり、権利の侵害であることから所有権を盾にして訴えられる可能性があります。
(市として、今、大変なのは)分譲共同住宅(マンション)であり、権利関係が戸建てと違う点です。管理組合がなく、意思合意形成の仕組みがない、かつ不明者がいるというのが大変なところです。
このように、集合住宅の場合は
“所有者が行方不明”
“所有者にすでに支払い能力がない”
などの理由から、解体費用の回収に難航するケースが多いのが大きな特徴です。
行政代執行による建物解体工事にかかる費用は、解体後は物件の所有者に請求されます。(行政代執行法第2条)
行政代執行の原資は税金なので(空き家対策特別措置法第15条)、解体費用を回収できないと政治問題になりかねません。地域住民からも、大きな反発の声が上がるでしょう。自治体としても放置はしておけない、非常に深刻な問題であると言えます。
国土交通省によると、築40年を越える高経年マンションの戸数は10年後には約2.4倍の197.8万戸、20年後には約4.5倍の366.8万戸になる見込みです。
同省の『平成28年マンションの再生手法及び合意形成に係る調査』では、高経年のマンションになるほど、空き家化・高齢化が進み、所在不明者等の発生する割合が高くなることが明らかにされています。
現在と将来の課題としては、管理組合の役員の担い手がいないことや、総会運営や集会の議決が困難になる等が挙げられています。
適切に管理がされていない高経年マンションでよく見られる問題としては、
などがあり、このようなマンションは近隣住民の生命・身体にも大きな危険を及ぼすおそれがあります。
今後は、空き家となった高経年マンションの解体をめぐるトラブルが多発すると予想されるでしょう。
参考リンク:平成28年マンションの再生手法及び合意形成に係る調査
冒頭で紹介した事例のように行政代執行が実施されることになった場合、高額な費用を請求されることになりかねません。
管理しきれないまま廃墟同然となったマンションを所有している人はもちろん、深く考えないまま、そうした物件を相続してしまった人は、遠くない将来に解体費用の負担が発生するリスクがあります。支払いを拒否しても、行政代執行となれば高額な請求は所有者の元に届きます。
もう過去のことだからと軽く考えず、現実の問題として注意して対応することが必要です。
「なんとなく手を付けづらい」「よくわからないから」といってこれといった対策もせず放置し続けると、自治体や地域住民までを巻き込む大きなトラブルに発展してしまうことがお分かりいただけたかと思います。
所有する物件の解体について具体的に何から手を付ければよいのかわからない人は、まずは下記などの方に相談することをお進めします。
物件そのものの管理会社と連絡が着くなら、その管理会社とやりとりするのが最初でしょう。すでに管理会社と連絡が取れない場合は、地元を扱っている不動産業者に相談することで解決の糸口をあたることができるかもしれません。
弁護士には分譲マンションの所有権や相続など法律に関わる部分を相談できます。大きな損失なくすでに使用していない物件の処分を進めるのにどうすればいいか、法律的な側面からアドバイスがもらえるでしょう。
解体を進める方針がハッキリしている場合は、解体業者へご相談ください。ただし、所有者全員の同意なく解体は進められません。対処に困る場合は、やはり行政をまじえて解体手続きの進め方を検討していくのが現実的でしょう。
第5次マンションブームと呼ばれているのが1986年~1989年頃。当時はバブル経済による好況・地価高騰が進む中、都心部に建設された高級マンション・郊外にファミリー層向けのマンション、投資を目的としたワンルームマンションなどが人気を博しました。
そうした物件が、向こう10年の間には築40年に到達します。物件の老朽化の進行と所有者の高齢化にともない分譲マンションの空き家化による廃墟化~解体をめぐるトラブルは、今後ますます増加することが見込まれます。
決して他人事ではなく、マンション所有者なら誰もが理解しておく必要がある問題と言えるでしょう。
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